橋梁点検の基本|橋梁点検支援システムで紙・CAD作業を半減
橋梁(きょうりょう)は道路や鉄道など社会インフラを支える重要な構造物であり、その安全性を維持するためには定期的な点検が欠かせません。特に日本では高度経済成長期に建設された橋梁の老朽化が一斉に進行しており、事故を未然に防ぎ長寿命化を図るためにも計画的な維持管理が求められています。
しかし、現場の橋梁点検業務では、いまだに紙の図面や帳票への手書き、事務所でのCADトレース作業といったアナログ作業が主流で、非効率な運用が「当たり前」になっているケースも少なくありません。
本記事では、橋梁点検の基本と現場で直面する課題を整理し、DX(デジタルトランスフォーメーション)による解決策として橋梁点検支援システム「See-Note」を紹介します。
橋梁点検の基礎
橋梁点検の目的と必要性
橋梁点検は橋の安全と寿命を守るために定期的に実施される検査です。専門の技術者や保全担当者が橋の各部材の劣化・損傷状況を確認し、必要に応じて補修や補強計画を立てます。点検によって安全で円滑な交通の確保や第三者被害の防止に必要な情報を収集し、適切な維持管理に役立てることが目的です。
例えばコンクリート部材のひび割れや剥離、鋼材の腐食や断面減少など放置すれば致命的となり得る損傷を早期に発見し、事故を未然に防ぐことができます。また定期的な点検と予防保全により橋梁の長寿命化が図られ、社会インフラの信頼性維持にも大きく貢献します。

橋梁点検の頻度・法定要件
日本では2014年(平成26年)より道路法施行規則の改正によりすべての道路橋に5年に1度の近接目視による定期点検が義務化されました。
法定の定期点検では原則として橋梁の各主要部材に直接近接して目視で詳細に検査し、その健全度をI(健全)〜IV(緊急措置必要)の4段階に判定して記録します。点検結果は自治体や道路管理者によって公表され、判定III・IV(早期措置・緊急措置が必要)の橋梁には計画的な修繕が実施されます。
点検の流れ
橋梁点検は一般的に「事前調査 → 現場点検 → 評価・判定 → 報告書作成」という流れで実施されます。
- 事前調査
対象橋梁の図面や過去の点検・補修履歴などの基礎資料を収集し、点検計画を立てます。 - 現場点検
橋の構造形式や部材ごとに劣化・損傷の有無を近接目視や簡易な計測で確認します。高所や橋桁の下面など手の届かない箇所は、高所作業車(橋梁点検車)や作業足場を使用し、必要に応じて打音検査(ハンマーで叩いて音の違いから劣化を判断)なども行います。 - 評価・判定
点検結果に基づき、部材や橋全体の健全度をI〜IVで判定します。異常が認められた場合は、緊急補修や詳細調査などの対応方針を検討します。 - 報告書作成
点検結果と評価内容をとりまとめ、写真や図面を添えて報告書を作成し、橋梁管理者(道路管理者)に提出します。
橋梁点検の種類
日常点検
道路パトロールや巡視の一環として外観をこまめに確認し、ひび割れや剥落の兆候、異常なたわみ・漏水などを早期に捉えることが狙いです。チェックリストや写真で簡潔に記録し、異常を見つけた場合は速やかに上位の点検へエスカレーションします。
中間点検
5年ごとの法定の定期点検までの“空白期間”を埋める位置づけで、双眼鏡や打音など比較的簡易な方法を用い、第三者被害につながり得る兆候を見逃さないための確認を行います。定期点検ほど大掛かりではないものの、定期点検の結果や施設の重要度に応じて重点箇所を選び、異常の有無を把握します。
定期点検
定期点検は原則5年に1度、橋全体の健全度を体系的に把握するために実施します。橋梁点検車や高所作業車、足場などで部材に近接して目視し、必要に応じて計測を行います。結果は部材ごとに健全度(I~IV)で評価し、図面へのマーキング、部位写真、所定様式の帳票として整理します。情報量が大きく、現場記録から報告書作成までのワークフローに時間と手間がかかりやすいのが実務上の課題です。
異常時点検
異常時点検は、地震・豪雨・衝突事故・洗掘などの事象発生直後に、安全性を迅速に確認し、通行規制や応急措置の要否を判断するための臨時点検です。短時間での意思決定が求められるため、迅速な目視や簡易計測を基本に、必要に応じて追加調査へとつなげます。いずれの点検でも「どの部材のどの損傷を、いつ、どう記録したか」を明確に残し、翌年度以降も比較できる形でデータを引き継ぐことが、診断の精度とスピードを左右します。
| 点検種別 | 主目的 | 主な方法 | 頻度 | 内容 |
| 日常点検 | 兆候の早期把握 | 外観確認・写真 | パトロール時 | 簡易記録 |
| 中間点検 | 空白期間の補完 | 目視・双眼鏡・打音 | 管理方針による | 異常の有無 |
| 定期点検(法定) | 構造全体の健全把握 | 近接目視+必要に応じ非破壊 | 原則5年ごと | 健全性Ⅰ〜Ⅳ評価 |
| 異常時点検 | 直後の安全確認 | 迅速な目視・簡易計測 | 地震・豪雨等直後 | 応急措置判断 |
橋梁点検の課題
紙図面への手書きとCADトレースの二重作業
橋梁点検の現場では「紙に書いて、それをまたデータに起こす」という二度手間が当たり前のように行われています。
例えば定期点検では、点検員は現地で橋の図面に赤ペン等でひび割れや剥離箇所を描き込み、欄外に損傷内容をメモします。さらにデジカメで数十枚の写真を撮影します。そして事務所に戻ってから、今度はそれら手書き図面を見ながらCADソフトで清書し直し、報告書用にExcelフォーマットへ数値や文章を入力し、写真を貼り付けていく作業が待っています。
現場からは「同じ内容を何度も転記するのが無駄」「過去の点検データをすぐ参照できず劣化進行の判断が難しい」といった不満の声も多く聞かれます。紙だと前年までに記録された損傷箇所との比較も一目で行いづらく、経年変化の把握に手間取ることがあります。また物理的な問題として「雨天時に記録用紙が濡れる」「強風で紙図面が飛ばされる」「高所作業で片手しか使えず記入が困難」など、紙運用そのものの苦労も作業員から多く指摘されています。これらの課題は紙+手作業というアナログ管理に起因するものであり、橋梁点検業務の効率化にはまず現場記録の電子化と一元管理が不可欠だと言えます。
従来、多くの点検現場では紙のチェックシートや手書き帳票によるアナログ管理が主流でした。点検結果を現場で紙に記録し、事務所に持ち帰ってからExcelに転記したり、ファックスで報告したりする運用が今なお残っています。紙運用は集計に時間がかかり、入力ミスも発生します。ある事業者では報告に月10日を費やしているケースもあります。
現場作業員の声として多いのが「雨天時に点検票が濡れる」「風が強い日に用紙が飛ばされる」「高所作業で片手しか使えない時に記入が困難」といった物理的な課題です。また「同じ内容を何度も転記するのが無駄」「過去の点検データをすぐに参照できず、劣化進行の判断が難しい」という実務上の不満も多く聞かれます。
写真・報告書の管理負荷
橋梁点検では写真と報告書の管理も大きな課題です。1つの橋の定期点検で撮影される写真は、全景・部位ごとの近景・損傷の詳細など数十枚から場合によっては百枚を超えます。これらを整理し、対応する損傷箇所や図面上の位置と紐付けて報告書に貼り付ける作業は従来すべて手作業です。紙報告書への写真貼付やExcel帳票への画像張り込みに追われ、肝心の点検結果の分析に十分な時間を割けないという本末転倒な状況も散見されます。
また、完成した報告書や写真データの保管・検索も問題です。紙の報告書はファイリングして保管されますが、量が多くなると目的の情報を探すだけでもひと苦労です。電子データで保存していてもフォルダが部署ごと・年度ごとに分散していれば、過去の点検結果を横断的に参照するのは容易ではありません。「過去の点検データをすぐに参照できない」という声は現場からも多く、データが活用されず眠ってしまう原因になっています。さらに、監査対応や上部機関への報告の際にも、資料探しや再整理に時間を取られる非効率が生じます。
オフライン現場での入力困難
橋梁は山間部や長大トンネル区間、高架道路上など様々な場所に存在します。当然ながら、現場によってはインターネットや携帯電波の届きにくい環境も少なくありません。山奥の林道にかかる橋や、地下トンネル内の高架橋などでは、タブレットやPCを使ったオンラインでのデータ入力が通信圏外でできないことがあります。こうした場合、結局現場では紙にメモを取り、事務所に戻ってからシステムに入力し直すしかない…というのが従来の悩みでした。せっかく電子化に踏み切っても、「現場ではオフラインだから使えない」となってしまっては本末転倒です。
実際、「山間部やトンネル内など通信状況の悪い現場環境でも点検結果を登録可能」「事前に施設台帳データを端末に取り込んでおけばオフラインでも使える」というオフライン対応は、点検支援システムにおける重要な要件の一つです。
ソリューション紹介:橋梁点検支援システム「See-Note」で実現する橋梁点検DXたらすメリット
前章で挙げた課題を解消する切り札となるのが、橋梁点検支援システム「See-Note」です。See-Noteはインフラ点検業務向けのシステムで、橋梁をはじめトンネルやプラント設備、エネルギー施設など幅広い現場で活用されています。ここでは橋梁点検への適用を念頭に、その主な機能・メリットをご紹介します。
現場での電子入力と自動CAD化
See-Noteを使えば、これまで現場で紙図面に手書きしていた内容をそのままタブレット上でデジタル記録できます。
タブレットに表示した橋梁図面上にタッチ操作で損傷箇所をマーキングしたり、キーボードや手書き入力でコメントを残したりできます。
現場で入力したデータはクラウド上に保存・共有され、事務所に戻ってから改めてCAD図面にトレースする手間は不要です。
See-Noteは入力内容からDXF形式のCAD図面データを自動生成するため、紙->CADへの描き起こし作業が丸ごと削減されます。

See-Noteでの図面への電子入力
写真・メディアの一元管理
See-Noteでは点検時に撮影した写真・動画・音声メモを紐付けて記録できます。タブレット内蔵カメラや連携デジカメで撮影した写真は、その場で点検記録に添付し、図面上の該当箇所にアイコン表示させて管理できます。後から「どの写真がどの部材のどの損傷を写したものか」が直感的に分かるため、写真整理の時間が劇的に短縮されます。もちろん撮影日時や位置情報も自動で記録されるため、いちいちファイル名に橋梁名や撮影箇所を入力するような手間もありません。
これらのデータはクラウド上で一元管理されるため、過去の点検履歴や写真もキーワード検索や地図検索ですぐに呼び出せます。
さらに記録データは部署内や関係者間でリアルタイム共有できるため、点検完了後すぐに上長や管理者が内容を確認し、補修の指示を出すといったことも可能になります。クラウド共有とデータベース化によって、橋梁点検データの利活用が飛躍的に向上します。

See-Noteでの画像管理
オフライン対応
山間部や地下構造物などネット接続が不安定な現場でもSee-Noteは問題なく動作します。事前にタブレット端末内に必要な図面や構造諸元データをダウンロードしておけば、オフライン環境でもフル機能で点検入力が行えます。オフラインで記録したデータは、後でLTE/Wi-Fi圏内に戻った際に自動でサーバーに同期されます。
これにより「圏外だから結局紙で記録」といった事態を避け、あらゆる場所で一貫したデジタル点検を実現します。特に山岳部の吊橋や長大橋のケーブル点検、トンネル内の高架橋点検など、従来紙運用に頼らざるを得なかった現場で威力を発揮します。
橋梁点検のDX事例
市内の道路橋の定期点検業務にSee-Noteを採用しました。導入以前は、現場で紙の橋梁図面にひび割れや腐食箇所を手書きでマーキングし、事務所へ戻ってからCAD図面にトレースするという流れで作業しており、この両工程に多大な手間がかかっていました。
導入後は、点検員がタブレット上で直接橋梁図面に損傷情報を書き込むようにし、そのデータをもとに自動生成されたCAD(DXF)図面と自動作成された報告書を確認・微修正するだけで済むようになりました。現場と事務所で二重に図面を書き直す作業が完全になくなったことで、定期点検1回あたりの図面作成作業時間は従来比でゼロに近い大幅短縮を実現しました。「図面の清書作業が無くなり、本来注力すべき点検結果の分析や補修検討に時間を割けるようになった」と担当者は語っています。
さらにこの自治体では、橋梁の年次点検にもSee-Noteを活用しています。重要橋梁については毎年度簡易な点検を実施し、その結果をSee-Note上の橋梁図面に追記していく運用です。
まとめ
橋梁点検は安全・安心な社会インフラを未来につなぐために欠かせない取り組みですが、現場のアナログ作業には多くの課題が存在します。紙への記録とCAD転記の二重作業、写真や報告書の煩雑な管理、通信環境に左右される不便さ――これらは点検従事者の負担となり、限られた人員で増え続ける老朽橋に対応する上で大きな障壁となっていました。
しかし、橋梁点検支援システム「See-Note」のようなDXソリューションを導入すれば、その障壁を乗り越えることができます。現場での点検記録から報告までをデジタル化・一元化することで、紙・CAD作業は半減し、業務効率は飛躍的に向上します。
現在、紙での橋梁点検に限界を感じている技術者の方は、ぜひ一度こうした橋梁点検DXツールの活用を検討してみてください。
