インフラ点検DXの重要性とSAYコンピュータのソリューション事例

インフラの点検とは

インフラの点検とは、道路や橋梁、上下水道など社会インフラの安全性を保つための定期検査です。

専門の技術者や保全担当者が現場で設備の劣化・損傷の有無をチェックし、必要に応じて補修や更新計画を立てます。例えば橋やトンネルでは5年ごとの定期点検が義務付けられており、ひび割れや腐食、変形がないかを調査します。インフラ点検は事故を未然に防ぎ、インフラを長寿命化する上で必要不可欠になります。

橋のインフラ点検

インフラ業界が直面する点検・保安の課題

インフラ点検の現場では近年、様々な課題が顕在化しています。

設備老朽化の進行

高度経済成長期に集中的に整備された日本の社会インフラは、現在一斉に高経年化しつつあります。

国土交通省の調査によれば、全国の道路橋は2033年には約63%が建設後50年を超える見込みです。また近畿地方だけでも道路橋の老朽化率は2022年時点で約36%ですが、20年後には約78%に急増する見通しです。

さらに深刻なのは老朽化が進むインフラの状態です。全国の道路橋のうち、「早期に措置を講ずべき状態」または「緊急に措置を講ずべき状態」と判定された橋梁が約5万9千カ所あり、そのうち約3万1千カ所(53%)が未対策のままとなっています。老朽化で点検需要が増える一方、補修は時間も費用もかかり、安全リスクも高まります。

点検人員の不足

インフラを維持管理する技術者や作業員も不足傾向にあります。経験豊富な技術者の高齢化や若手不足が深刻で、自治体では土木技術職員数が減少し続けている状況です。人手不足で定期点検が遅れ、見落としのリスクが高まっています。

特に地方公共団体では、国や高速道路会社に比べて対策着手率が低く、未対策のインフラが多く残されています。

アナログ管理体制の非効率

従来、多くの点検現場では紙のチェックシートや手書き帳票によるアナログ管理が主流でした。点検結果を現場で紙に記録し、事務所に持ち帰ってからExcelに転記したり、ファックスで報告したりする運用が今なお残っています。紙運用は集計に時間がかかり、入力ミスも発生します。ある事業者では報告に月10日を費やしているケースもあります。

現場作業員の声として多いのが「雨天時に点検票が濡れる」「風が強い日に用紙が飛ばされる」「高所作業で片手しか使えない時に記入が困難」といった物理的な課題です。また「同じ内容を何度も転記するのが無駄」「過去の点検データをすぐに参照できず、劣化進行の判断が難しい」という実務上の不満も多く聞かれます。

DX推進でインフラ事業者にもたらすメリット

インフラ点検業務にDXを導入することで、以下のような大きなメリットが得られます。

業務効率の向上

点検記録の電子化やクラウド共有により、紙の帳票整理や手入力の手間が削減されます。現場でタブレットに直接データ入力し写真も添付できれば、事務所に戻ってから報告書を作成する時間を大幅に短縮できます。

現場で特に評価されているのは「未入力項目の自動チェック機能」です。従来は点検漏れに気づくのが事務所に戻ってからということも多く、再度現場に戻る手間が発生していました。

また、タブレットのGPS機能により位置情報が自動記録されるため、広範囲に点在するインフラの管理がしやすくなったという声も現場から上がっています。雨や強風の日でも防水ケース付きタブレットなら安定して作業でき、天候に左右されにくくなったという実務上の利点も見逃せません。

また、チェックリストへの記入漏れ防止機能やテンプレート活用で作業の標準化・ミス削減が図れます。結果として、同じ人員でもより多くの設備を点検できるようになり、生産性が向上します。

さらに国土交通省の試算によれば、事後保全型(問題が発生してから対応する方式)ではなく、デジタル化による予防保全型のメンテナンスを選択することで、2048年までの維持管理・更新費用を約47%(約12.3兆円→約5.9~6.5兆円)削減できることが明らかになっています。

See-NoteのGPS機能

See-NoteのGPS機能

リスク管理と安全性の強化

デジタル化により点検データを一元管理できるため、異常箇所や経年変化の把握が容易になります。例えば不具合情報がリアルタイムでクラウド共有されれば、緊急対応や予防保全の判断が早まります。異常があった設備の情報を関係者がすぐ共有できるので、二次災害の防止や迅速な補修手配につながります。

また、過去の点検履歴データを蓄積・分析することで、劣化傾向の早期発見や長期的な修繕計画の立案など戦略的な保全が可能になります。DXはインフラの安全性向上とリスク低減にも直結しています。

迅速な意思決定

点検結果がリアルタイムに経営層や管理部門と共有されることで、現場と本部との情報ギャップが解消されます。これにより、異常発生時の意思決定プロセスをスピードアップできます。例えば、従来は紙報告を取りまとめて月次で会議報告していたものが、DX導入後はクラウド上で日々進捗をモニタリングできるため、必要に応じてその日のうちに対策指示を出すことも可能です。

データに基づく迅速な判断ができることで、事故の未然防止やサービス復旧のリードタイム短縮に寄与します。ひいては経営判断の精度向上や顧客サービス向上といった波及効果も期待できます。

SAYコンピュータのインフラ点検DX事例

ガス点検システム

大手都市ガス事業者では、現場点検のデジタル化を目的にタブレット対応の点検アプリを導入し、各種業務でDXを推進しています。

たとえば導管工事の抜き取り検査では、監督者が現場で施工状況や試験結果をリアルタイムに入力・送信できるため、工事管理の効率と品質が大幅に向上しました。架空配管や圧力調整器などの定期点検でも、担当者がモバイル端末のチェックリストに沿って腐食・漏えいの有無を確認し、写真付き報告を即時共有することで、紙帳票に比べて迅速かつ正確な記録が可能になっています。

風力点検システム

再生可能エネルギー設備の分野でもDX活用が進んでいます。SAYコンピュータは風力発電所向け点検システムを提供しており、全国の風力発電事業者で導入実績があります。

このシステムでは、風力発電設備(風車)の定期点検業務をタブレットとクラウドで管理します。保守スタッフはブレード(羽根)やタワー部分の点検項目をタブレット上で確認しながら検査し、不具合を見つけた場合は該当箇所の写真を撮影してその場で記録します。

点検結果データから自動で報告帳票を生成できるため、紙の報告書を手作業で作成していた従来に比べ、大幅な時間短縮を実現しました。

タブレットを使用した点検

SAYコンピュータの提供する「See-Note」を核とした点検DXソリューションは、土木構造物からプラント設備、エネルギーインフラに至るまで多様な現場で活用されています。

インフラ点検導入成功のポイント

システム選定

まずシステム選定においては、現場の業務フローに適合するものを選ぶことが肝要です。例えば紙のチェックリストを使っていた現場には、従来の帳票レイアウトをそのまま電子化できるシステムを選ぶと現場も受け入れやすくなります。実際SAYコンピュータのSee-Noteは、今使っている紙フォームをほぼそのままタブレット画面に再現できる柔軟な帳票設計機能を持ち、「現場で違和感なく使える」と評価されています。

現場作業員から評価が高いのは「片手操作モード」の存在です。高所作業やはしご上での点検では安全確保のため片手しか使えない状況が多いため、大きなボタンと音声入力機能を組み合わせた設計が実務上重宝されています。また、ベテラン技術者でも扱いやすいよう文字サイズ変更機能や直感的な操作体系を取り入れており、デジタル機器に不慣れな作業員でも半日程度の研修で操作できるようになるという実績があります。法令改正にも迅速に対応し、最新の点検要領に準拠した帳票形式を提供することで、行政報告の手間も大幅に削減しています。

運用設計

運用設計の面では、現場と管理部門双方の業務プロセスを踏まえた導入計画を立てることが重要です。

導入初期は現場からヒアリングを行い、どの業務からデジタル化するか優先順位を決めて段階的に展開するとスムーズです。例えば最初は点検記録の電子化から始め、慣れてきたら報告承認のワークフロー機能やデータ分析機能を活用する、といったステップを踏むことで現場の負担を軽減できます。加えて、既存の基幹システムや他部署との情報連携も考慮した設計が望まれます。

人材育成とサポート

新システム導入時には現場への丁寧な研修を実施し、「なぜDXが必要なのか」「使うと何が良くなるのか」を共有することでモチベーションを高めます。現場からのフィードバックを運用設計に反映し、改善を続ける姿勢も重要でしょう。現場と開発者が二人三脚でシステムを育てていくことで、真に「現場に寄り添った」DXが実現します。

まとめ

インフラの老朽化と担い手不足という大きな課題に直面する中、インフラ点検のDXは不可避かつ有益な取り組みとなっています。デジタル技術の活用によって、点検業務の効率化、データ共有の迅速化、安全品質の向上といった効果が既に各所で実証されています。

SAYコンピュータの提供する各種ソリューション事例からも分かる通り、現場の実態に即した形でDXを進めれば、限られた人員でもインフラの安全を守り抜くことが可能です。技術先行ではなく現場主体で運用を築くことがDX成功の条件です。

社会インフラの安全・安心を未来につなぐために、今こそ点検業務のDXを推進し、持続可能なインフラ維持管理体制を構築していきましょう。